村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

カンガルー日和

【図書館奇譚】「カンガルー日和」より

本作は若い読者に向けて描かれた寓話的な物語です。世界各国の言語に翻訳されており、絵本になったバージョンも存在します。 【要旨】 図書館の地下室で老人から本を借りた僕は牢屋に閉じ込められてしまった。 1か月後に本の内容を暗記していたらそこから出…

【サウスベイ・ストラット】「カンガルー日和」より

本作のタイトルを正確に記述すれば『サウスベイ・ストラットーーードゥービー・ブラザーズ「サウスベイ・ストラット」のためのBGM』となります。題名からして遊び心が溢れたゴキゲンな作品に仕上がってます。 【要旨】 私は一人の女を捜し出すためにサウスベイ…

【かいつぶり】「カンガルー日和」より

進学、就職、結婚等々。これらは俗に人生の《ターニングポイント》と呼ばれています。本作はその一つである就職をめぐって奇妙な体験をした男の話です。 【要旨】 今日はやっとみつけたうまい仕事の最初の出社日である。 長い廊下を歩き続けて、なんとか葉書…

【スパゲティーの年に】「カンガルー日和」より

本作には、《孤独》の闇のなかでひたすらスパゲティーを作り続ける主人公の姿が描かれています。 ボクら大人たちが待つ「まっとうで平凡な世界」への船出を目前にして、この若者はいったい何を躊躇しているのでしょうか? 【要旨】 1971年、それは僕にとってス…

【チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏】「カンガルー日和」より

本書はある若い夫婦が体験した《貧乏》をノスタルジックに描いた作品です。荒唐無稽な状況にもどこか懐かしい気持ちになります。 【要旨】 「貧乏」といえば、昔暮らしていた三角形の細長い土地のことを思い出す。 僕と彼女は家賃の安さから、鉄道線路に挟まれ…

【とんがり焼の盛衰】「カンガルー日和」より

本作は高校教科書に採用されました。の発表当時の作者を取り巻く時代背景を御存じの方は、芥川賞の選考委員や文壇に対する皮肉をごく自然に読み取ることでしょう。事情を知らない高校生たちにも《寓話》の奥深さを充分に堪能できる内容になっていますが。 【…

【32歳のデイトリッパ―】「カンガルー日和」より

ビートルズの『デイトリッパー』は、自由奔放な女の子に手を焼く男のぼやきといった内容の曲です。本作は陽気な曲調とスキャンダラスな雰囲気を織り交ぜながら《若さ》の秘密に迫っています。 【要旨】 僕は彼女との月に一度だけの歳の差デートを楽しんでい…

【駄目になった王国】「カンガルー日和」より

本書の描く世界観を理解するのはなかなか難しいことかも知れません。なにしろ本文中でも『説明するのは特殊な作業であり、至難の業である』と漏らしているくらいですから。ともかく、奇妙な読後感が残る本作をご紹介します。 【要旨】 大学時代に出会ったQ氏…

【5月の海岸線】「カンガルー日和」より

これまで抽象化された物語を描いてきた作家にしてはめずらしく、本作は特定の場所や時間を具体的に想起させる記述になっています。さらに、主人公が口にした恨み節がその後の阪神淡路大震災に結び付けられてセンセーショナルに受け止められるなど、何かと話…

【バート・バカラックはお好き?】「カンガルー日和」より

通信教育の文通をめぐるほのぼのとしたエピソードは、いつしかあらぬ方向にそれていきます。息をつめて読み進んだその先で作者が明かした一つの《テーマ》。そこから小説というものをどんな風に読めばよいのか? について少し考えてみました。 【要旨】 今か…

【1963/1982年のイパネマ娘】「カンガルー日和」より

本作はボサノヴァのスタンダード・ナンバーを題材にした作品です。軽やかなメロディと《物質と記憶》をめぐる重厚な哲学が共演する大人の作品に仕上がっています。 『形而上学的な熱い砂浜』 1963/1982年のイパネマ娘は形而上学的な熱い砂浜を音もなく歩きつ…

【鏡】「カンガルー日和」より

本作は複数の国語教科書に採用されたという意味で、隠れたベストセラー作品です。教室で読む村上作品はいったいどんな感じがするのでしょうか。若い感性をもつ生徒たちと本作をテーマに語り合ってみたいものです。 【要旨】 それは僕が小さな中学校で夜警の…

【あしか祭り】「カンガルー日和」より

本作は各種のイデオロギーが蔓延した社会の風刺が描かれていますが、テンポの良さと物語全体を包むユーモアで文句なしの面白さです。 【要旨】 玄関のベルがカンコンと鳴り、ドアを開けるとそこにあしかが立っていた。 「僕」はなんだかよくわからないまま「…

【彼女の町と、彼女の綿羊】「カンガルー日和」より

本作は特定の日時や場所・固有名詞が使われていて、まるで私小説のような作品です。札幌の冬の到来を思い浮かべながら、主人公の心によぎるのはきっとあの《羊の物語》ではないでしょうか。 【要旨】 東京で作家をしている「僕」は札幌の街で古い友人と交流…

【タクシーに乗った吸血鬼】「カンガルー日和」より

本作は機知に富んだ会話とトボけた間の取り方が楽しい戯曲風の作品です。テーマの掘り下げはさほど深くありませんが、興味深い着想を含んでいます。 【要旨】 「僕」は渋滞の道路上でタクシーの車内に閉じ込められている。 「吸血鬼って本当にいると思います…

【眠い】「カンガルー日和」より

本作は「僕と彼女」の軽妙なやり取りが楽しい作品です。モラトリアムな青年の立場に作者の個人的な心情も垣間見える興味深い作品になっています。 【要旨】 彼女とふたりで出席した結婚式でうたた寝が始まる。 花嫁の友人の友人である僕は、員数合わせのために…

【4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて】「カンガルー日和」より

《恋愛》にまつわる都会の片隅のメルヘンが描かれた作品です。抽象化された情景に遠い日の記憶が呼び覚まされます。 【要旨】 原宿の裏通りを歩いていた僕は「100パーセントの女の子」と出会う。 花屋の店先ですれ違った彼女は、振り返れば人混みの中に消え…

【カンガルー日和】「カンガルー日和」より

短編集『カンガルー日和』は掌編を18編集めて構成されています。今回はその中から高校の現代国語教科書にも採用された表題作をご紹介します。 【要旨】 待ちに待った月曜日の朝、僕と彼女は動物園へと出かけた。 柵のなかには三匹のカンガルーと生まれたばか…