本作は「僕と彼女」の軽妙なやり取りが楽しい作品です。モラトリアムな青年の立場に作者の個人的な心情も垣間見える興味深い作品になっています。
【要旨】
- 彼女とふたりで出席した結婚式でうたた寝が始まる。
- 花嫁の友人の友人である僕は、員数合わせのために駆り出された部外者。
- 「本当のことを言うと、誰かの結婚式に出るたびに眠くなるんだよ」
【ある結婚式にて】
知り合いのいない結婚式に、友人のふりをして出席することほど退屈なものはありません。素敵な料理を目の前にしても、睡魔に襲われる気持ちはよく分かります。
「本当のことを言うと、誰かの結婚式に出るたびに眠くなるんだよ」と僕は告白した。
「いつもいつも、きまってそうなんだ」
「まさか」
どうやら少し事情があるようです。結婚式そのものが「僕」の潜在意識に影響を及ぼしているということなのですが・・・。
「要するに」としばらくあとで彼女は言った。
「あなたはいつまでも子供でいたいのよ」
彼女にいさめられて返す言葉もない。「僕」の心に去来するものはいったい何でしょうか?
【メタファーとしての結婚式】
さて、昨今では趣向を凝らした冠婚葬祭の運営がされているようで、昔のようにかしこまった雰囲気は消えつつあるようです。二人を取り巻く状況の受け止め方は世代によって違いがあるのかもしれませんが、ボクのような古い世代には、冠婚葬祭といえばドリフの爆笑コントが頭に浮かびます(^-^)
作品を読んでいるうちに意識がぼんやりとしてきたので、ここから勝手な妄想を思い描くことをお許しください。
主人公の「僕」はスペリング・テストが得意で、隠喩を巧みに操るシニカルな若者。目の前に若き日の村上春樹本人の姿が浮かび上がってきました。
形式ばった結婚式は、新人作家の彼が見た当時の文学界の《メタファー》。そんな彼が作り出す作品は、必然的に既存の文学に対するアンチ・テーゼを帯びていて、さまざまな批判や誤解を生みます。
「あなたは世の中をはすに眺めている」「何かのコンプレックスを抱えている」
といった作中の指摘は、少なからず彼の信念を揺さぶったかもしれません。しかし、だからと言って彼は創作に対する姿勢を変えるつもりは毛頭無いようです。これまでも・・・そしてこの先も・・・Zzz