村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【レーダーホーゼン】「回転木馬のデッド・ヒート」より

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 「 レーダーホーゼン」とはドイツ南部のバイエルンオーストリアチロル地方の鹿革半ズボンで、女性のディアンドルと並び立つ代表的な民族衣装です。改めてネットで検索してみると、かつての野暮ったい印象を払拭するカッコよさ。さぞかし値段も張ることでしょう(*´з`)

 

《あらすじ》
ドイツへの一人旅に出かけた母は、父と娘のいる家には二度と戻ってこなかった。3年後にようやく母と娘は顔を会わせ、そこで初めて家を出て行った経緯が語られる。それは半ズボン(レーダーホーゼン)にまつわる奇妙な物語だった。

 

『母の旅』

「私はそれまでずっと母の側に立っていたし、母も私のことを信頼してくれていると思っていたの。それなのに母は何の説明もなく父親とこみで私を捨ててしまったのよ。それは私にはとてもひとい仕打ちに思えたし、それから長いあいだ私は母を許すことができなかったの。」

 

娘は三年後に連絡を絶っていた母親と出会い、離婚に至った真相を聞くことが出来ました。それは一人の女性が旅先で自立を獲得する話なのですが、傍目には理解できない奇妙さを含んでいました。

 

【娘の旅】

 『ヒロインの旅』の著者モーリン・マードックは次のように語っています。

女も旅をする。自分の価値を知り、心の傷を癒して女らしさを享受する旅だ(「ヒロインの旅」より)

 

 『ヒロインの旅』は、娘が母との関係に葛藤を抱えるところから始まります。地図もガイドもなければ、励ましも称賛も無く、無関心や邪魔が待ち構える困難な旅路です。なぜなら母に対する拒絶は同性であることへの拒絶、女らしさの否定へと進むからです。

 

 本作はそんな旅の途上にある娘の物語でもあります。母と別れてから彼女はどのような人生を歩んできたのか?『レーダーホ―ゼン』という母の答えを彼女がどのように受け止めたのか?いくつもの解釈の余地が、物語に深みをもたらしています。そして、母の生き方を通じて人生を問い続ける今の彼女は輝いているように感じられます。