村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【ノルウェイの森(上)】

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 本書はリアリズムの文体で書かれています。これまで寓話的に語ってきたテーマを初めて私小説(的作風)に取り入れた作品です。また、本書は驚異的な売り上げによって社会現象を巻き起こしました。それまで一部の読者にサブカル的な読まれ方をしてきた村上作品が、大衆文化に受け入れられるか計る試金石にもなりました。


【あらすじ】
ハンブルク空港に到着した飛行機から流れるビートルズの「ノルウェイの森」が直子と過ごした日々を蘇らせた。ワタナベは自殺した友人の恋人だった直子と、中央線の車内で偶然再会したのをきっかけにつきあい始める。 しかし、彼女の二十歳の誕生日のある出来事以来、彼女は姿を消した。しばらくして届いた手紙には、大学を休学し京都の山中の療養所にいると書かれてあった。  

 

『直子の記憶』

もっと昔、僕がまだ若く、その記憶が鮮明だったころ、僕は直子について書いてみようと試みたことが何度かある。でもそのときは一行たりとも書くことができなかった。(中略)全てがあまりにもくっきりとしすぎていて、どこから手をつければいいのかがわからなかったのだ。

 

直子は村上作品で何度もその後姿を見せていたことから、ボクのような村上主義者にはのっけから既視感を覚えずにいられません。

 

『緑との出会い』

その瞳はまるで独立した生命体のように楽し気に動きまわり、笑ったり怒ったりあきれたりあきらめたりしていた。僕はこんな生き生きとした表情を目にしたのは久しぶりなだったので、しばらく感心して彼女の顔を眺めていた。

 

大学で同じ授業を受けていた緑との出会いのシーン。律義なワタナベは直子のこともあって当初は彼女との交際に一線を画していたのですが、次第に彼女の存在が彼の中で大きくなっていきます。

 

【二つの愛】

 主人公のワタナベは直子との再会に運命的なものを感じました。それは「自分だけが直子を幸福に導くことができる」という確信です。その一方で、緑とのロマンスも始まります。自由奔放な彼女に振り回されるうちに、ワタナベは熱に浮かされたように緑を追い求め始めます。

 

 主人公がはまり込んだ心境は、プラトニックとエロスのせめぎ合いでした。こうした恋愛感情は生活実感から浮遊し始め、彼を奥深い精神世界へと引き込んでいくことになります。・・・と、ここまでつらつら書き連ねてきたのですが、この先に起こるエピソードをどのように語ればいいのか、

 

        正直なところボクは途方に暮れています

 

下巻はボクにとってすがるべき水先案内の見あたらないハルキイズムに突入しますが、その顛末については次回のブログにて。