村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【収集】『頼むから静かにしてくれ』より

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 さて、今回もまた妻に出て行かれた失業中の男が登場します(笑)。

 全体としてはコミカルな雰囲気のシュール・リアリスティック小説ですが、無駄のないストーリー展開、心の動きの心理学的正確さ、リアリズムを凌駕する象徴的な意味合いなど、素人目にも見事な出来の短篇だと思います。作者の生前に出版された精選作品集に収録され、映画化もされたカーヴァーの代表作をご紹介します。

 

《あらすじ》
業中の僕はソファーに横になって雨の音を聞きながら、北の方からの報せが来ることを待っている。それを受け取れば、すぐにでもここを出て行くつもりでいたのだが、郵便屋の代わりに訪れたのは奇妙な謎の人物だった。歳をくった男で、太ってむっくりとしたさえない風貌、手には大きなスーツケースを下げていた。

 

『あなたにお見せしたいものがあるんです』

これが何かわかりますか?

僕は近くに寄って見た。どうも電気掃除機みたいだな。僕はそんなものは買わないけれどね、と僕は言った。電気掃除機なんて買うつもりはまったくないな。

ちょっとあなたにお見せしたいものがあるんです、と彼は言った。上着のポケットからカードを一枚取り出した。

 

人が懸賞に当選したことを告げて、男は勝手に掃除機サービスをやり始めた。手始めにベッドのマットレスを吸引すると、カップ一杯のほこりを取り出してほらねという感じで差し出す。次に枕、続いてカーペットと、過去の夫婦生活で溜まったほこりを収集していく謎の男。彼の行動を見物しているうちに、「僕」の心にはある変化が訪れた。

 

【ココロのスキマ】

 「僕」は今の暮しから抜け出す希望を『北の方からの報せ』に託していました。おそらくそれは人生を賭けて情熱を燃やすに値する何かです。ただ、目の前で夫婦生活の残骸が回収されていくのを見ながら癒されていく主人公の様子からは、彼の情熱の真の動機が妻を失った哀しみにあったことが窺えて、しんみりとした気持ちになります。

 

 さて、最後に謎の男の正体がただの実演販売のセールスマンだったというオチがつきます。この男の企てによって主人公の心のすきまが解き明かされたと考えるなら、私から見た男の正体はただのセールスマンと言うよりも『笑ゥせぇるすまん 喪黒 福造』その人でした(^_-)-☆『ドーン!!!!』