村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

【⑩重荷を背負った男】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

今回ご紹介する作品には《合理主義》に取り憑かれた男が登場します。ここでいう《合理主義》とは実利や効率を最優先する行動原理を指します。私には男がアメリカ社会に時折現れる「保守反動」を象徴しているように感じられます。 《あらすじ》 その男は金銭…

【バースディ・プレゼント】(『バースデイ・ストーリーズ』より)

作者のアンドレア・リーはアフリカ系アメリカ人女性で、ハーヴァードで修士号を取得し、20代の若さで発表した作品は名誉ある全米図書賞にノミネート。イタリアの伯爵と結婚し、二人の子どもをもうけ、現在はトリノ暮らしです。モデルと見紛う美貌の持ち主で…

【⑨サミュエル】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

グレイス・ペイリーが描く作品には、ニューヨークの小さなコミュニティーを舞台にした『勝利と敗北の日々』が描かれています。また、イディッシュ語*1のリズムがその文体の特徴とされますが、残念ながら翻訳文からそれを感じとることは出来ません。生活感漂…

【慈悲の天使、怒りの天使】(『バースデイ・ストーリーズ』より)

作者のイーサン・ケイニンはハーヴァード大学で医学博士号を取得した経歴をもつ異色の小説家です。彼の書く物語は華々しさはないものの誠実で端正な雰囲気をもつ正統派。80年代に登場したヒップな作家たちとは一線を画していると言われています。 《あらすじ…