村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

【真実の愛】(『犬の人生』より)

著者のマーク・ストランドは「合衆国桂冠詩人*1」の称号を受けていて、アメリカの詩を語るうえで彼の作品は欠かすことができないと言われています。詩以外にも児童文学作家、翻訳者、編者、評論家など多彩な顔を持ちます。本書はそのなかから「ザ・ニューヨ…

【更なる人生を】(『犬の人生』より)

今回からアメリカ現代詩界を代表する詩人のマーク・ストランドの短編集『犬の人生』をご紹介していきます。翻訳はもちろん村上春樹。 彼の作品は俗に《オフビート*1》ととも呼ばれ、常識から外れた突飛なものが多いのですが、村上作品を理解するうえで欠かせ…

【めくらやなぎと、眠る女】(『レキシントンの幽霊』より)

本作は以前ご紹介した『めくらやなぎと眠る女』を、阪神・淡路大震災の被災地でのチャリティー朗読会向けに書き直しされた作品。「、」がついているのが目印です(笑) 改訂前と後で何が違うのか? なぜこの作品が朗読会に採用されたのか? 短編集『レキシントン…

【七番目の男】(『レキシントンの幽霊』より)

今回ご紹介するのは阪神淡路震災と地下鉄サリン事件を経て、村上春樹が最初に発表した作品です。ここには心に傷を負って苦しむ被災者や被害者及びそれを見守る人々に向けたメッセージが込められているように感じました。 《あらすじ》 風の強い夜に人々が集…

【トニー滝谷】(『レキシントンの幽霊』より)

先にご紹介した短篇『レキシントンの幽霊』は、作者の4年間のアメリカ生活を締めくくるような作品でした。年代物の家具や価値あるレコードが大切に保存された屋敷で、愛した人の面影を偲んで暮らす似たもの親子の話には、素朴な美意識や文化人特有の知的な…

【氷男】(『レキシントンの幽霊』より)

人種、国籍、思想、歴史、文化、宗教などの違いを超え、誰もが人間として尊重される社会を望む人々のことを《コスモポリタン(地球市民)》と呼びます。初期の村上作品は明らかにそうした理想を志向していました。カントの世界政府やトロツキーの世界革命論…

【沈黙】(『レキシントンの幽霊』より)

自分自身の認めがたい部分、人生において生きてこられなかった側面をユング心理学では《影(シャドウ)》と呼びます。それが何であるかは、現実に存在する他者に投影されて目の前に現れた時にはっきりとします。そこで人は《影》を理解し、自己に統合すること…