村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

【チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏】「カンガルー日和」より

本書はある若い夫婦が体験した《貧乏》をノスタルジックに描いた作品です。荒唐無稽な状況にもどこか懐かしい気持ちになります。 【要旨】 「貧乏」といえば、昔暮らしていた三角形の細長い土地のことを思い出す。 僕と彼女は家賃の安さから、鉄道線路に挟まれ…

【とんがり焼の盛衰】「カンガルー日和」より

本作は高校教科書に採用されました。の発表当時の作者を取り巻く時代背景を御存じの方は、芥川賞の選考委員や文壇に対する皮肉をごく自然に読み取ることでしょう。事情を知らない高校生たちにも《寓話》の奥深さを充分に堪能できる内容になっていますが。 【…

【32歳のデイトリッパ―】「カンガルー日和」より

ビートルズの『デイトリッパー』は、自由奔放な女の子に手を焼く男のぼやきといった内容の曲です。本作は陽気な曲調とスキャンダラスな雰囲気を織り交ぜながら《若さ》の秘密に迫っています。 【要旨】 僕は彼女との月に一度だけの歳の差デートを楽しんでい…

【駄目になった王国】「カンガルー日和」より

本書の描く世界観を理解するのはなかなか難しいことかも知れません。なにしろ本文中でも『説明するのは特殊な作業であり、至難の業である』と漏らしているくらいですから。ともかく、奇妙な読後感が残る本作をご紹介します。 【要旨】 大学時代に出会ったQ氏…

【5月の海岸線】「カンガルー日和」より

これまで抽象化された物語を描いてきた作家にしてはめずらしく、本作は特定の場所や時間を具体的に想起させる記述になっています。さらに、主人公が口にした恨み節がその後の阪神淡路大震災に結び付けられてセンセーショナルに受け止められるなど、何かと話…

【バート・バカラックはお好き?】「カンガルー日和」より

通信教育の文通をめぐるほのぼのとしたエピソードは、いつしかあらぬ方向にそれていきます。息をつめて読み進んだその先で作者が明かした一つの《テーマ》。そこから小説というものをどんな風に読めばよいのか? について少し考えてみました。 【要旨】 今か…

【1963/1982年のイパネマ娘】「カンガルー日和」より

本作はボサノヴァのスタンダード・ナンバーを題材にした作品です。軽やかなメロディと《物質と記憶》をめぐる重厚な哲学が共演する大人の作品に仕上がっています。 『形而上学的な熱い砂浜』 1963/1982年のイパネマ娘は形而上学的な熱い砂浜を音もなく歩きつ…