村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-06-01から1ヶ月間の記事一覧

【世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)】

この作品は一人の人間の《意識》と《無意識》の世界が交互に描かれます。 初めて読んだときには現実離れした娯楽作品のように思っていたのですが、改めて読み返すと、壁に囲まれた街の成り立ちにはユング心理学の裏付けがあり、計算士の脳に組み込まれたプロ…

【ねじまき鳥と火曜日の女たち】「パン屋再襲撃」より

本作は『ザ・ニューヨーカー』に掲載されたのち、英語圏向けの短編集『The Elephant Vanishes』の巻頭を飾りました。どこにでもあるような日常的なシチュエーションが綴られていますが、読み進むにつれて何か啓示のようなものが降りてくる気配が感じられます…

【ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界】「パン屋再襲撃」より

本作は長いタイトルに反して本文は12ページと短く、歴史上の史実にも深入りしていないので読みやすいかと思います。タイトルの『ヒットラー~』の部分が目に留まったのか、ドイツ語に翻訳された最初の作品となりました。かつてドイツでは村上作品の重訳(英訳…

【双子と沈んだ大陸】「パン屋再襲撃」より

本作は『1973年のピンボール』という中編のスピンオフ作品です。村上作品になじみのない人のために少しだけ解説しておきます。 [解説:1973年のピンボール] 『1973年のピンボール』は208と209のトレーナーを着た双子と主人公のひと夏の日々が描かれた作品…

【ファミリー・アフェア】「パン屋再襲撃」より

本作は《シチュエーション・コメディ》の約束事を忠実になぞっています。コミカルな場面では[笑い声]、放送コードにかかりそうなセリフには[ブーインング]や[警告音]を想像しながら読むとその世界観に没入できます。身近で庶民的な問題をとりあげなが…

【象の消滅】「パン屋再襲撃」より

世の中の事象は因果律に従って淡々と進んでいるように見えます。しかし、そうしたボクたちが素朴に信じる論理は、実は自然界において最初から崩壊していると言われます。にわかには信じられませんが、量子力学の学説によれば、人の目の届かない所で神様はこ…

【パン屋再襲撃】「パン屋再襲撃」より

福音書には『人はパンのみにて生くるものに非ず』という一節があります。これは神と共に歩むことの重みを説いたイエスの言葉とされていますが、キリスト教徒でもないボクのような人間は『パン』に象徴される生活の諸事に振り回されながら一生を終えることで…