村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2023-01-01から1年間の記事一覧

【⑥人生への関心】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 本作は以前このブログでご紹介した『道のり(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)』の別バージョンです。前作でミセス・ラフタリーから語られたのとほぼ同じ内容がジニーの側から語られています。 簡単におさらいを。ミセス・ラフタリーの息…

【大いなる眠り】

Amazonより 本書はレイモンド・チャンドラー初の長編小説であり、私立探偵マーロウ・シリーズの記念すべき第一作目です。ハードボイルドと推理小説の融合という手法を試みた画期的な作品でもあります。 《あらすじ》 私立探偵フィリップ・マーロウは、スター…

【⑤コンテスト】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより グレイス・ペイリーは同時代を生きる男女の姿を独創的なスタイルで語る方法を模索して本作を含む3つの作品*1を書きあげました。そうした創作を通じて、彼女は「文学の耳」と「生活の耳」の両方を手に入れたと言います。二つの耳が聞き取る身近な…

【④いちばん大きな声】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより グレイス・ペイリーは、ニューヨーク生まれブロンクス地区育ちのロシア系ユダヤ人です。ブロックスはユダヤ人のコミュニティー地区で、ロシア語とイディッシュ語と英語が同じくらいの割合で話されていました。彼女自身強烈なアクセントの英語を話…

【③淡いピンクのロースト 】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより グレイス・ペイリーは作家活動以外にも公民権運動、フェミニズム運動、環境保護活動などの政治活動で知られています。ヴェトナム反戦運動では何度も逮捕されるうちに知名度を上げ、難解とされる彼女の作品もカリスマ的な人気を獲得していきます。…

【プレイバック】

Amazonより 本書はレイモンド・チャンドラーが描く《私立探偵マーロウ・シリーズ》の七作目にして遺作となった作品です。かつて角川映画『野生の証明』のキャッチ・コピー『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない』が話題になり…

【②若くても、若くなくても、女性というものは】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより グレイス・ペイリーは子育ての合間に短編小説を書き、いろんな雑誌に送りました。しかし、当初はアマチュア主婦の書いた習作とみなされ、ことごとく掲載は拒否されたといいます。たまたまある編集者の目にとまり、37歳の新人作家のしかも雑誌に一…

【①さよなら、グッドラック】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 今回からアメリカ文学界のカリスマ的存在グレイス・ペイリーの作品を取り上げていきます。本ブログでは、過去に彼女の短編集『最後の瞬間のすごく大きな変化』をご紹介しましたが、アメリカでの刊行は本書の方が先で、彼女にとって初めての作品集…

【色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年】

Amazonより 村上作品の特徴は、日常を飛び越えて幻想的な世界に引き込む「つかみ」の強さにあります。読者はその不思議な読書体験を通じて、あたかも日常の矛盾や不条理さえもが解き明かされたような気分を味わうことができるでしょう。 今回ご紹介する作品…

【⑨頼むから静かにしてくれ】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 【カーヴァー・カントリー】 レイモンド・カーヴァーが文学史において重要とされる理由は《カーヴァー・カントリー》を発見したことにあります。村上春樹はそれについて次のようにコメントしています。 どこにでもいるごく当たり前の、そして良心…

【⑧合図をしたら】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 今回ご紹介するのは、妻の誕生日に新しくできたエレガントなレストランへ出かけた夫婦の話です。夫婦仲を立て直そうとする夫と、それにあまり乗り気ではない妻のビミョーな関係が描かれます。 『すべてはあなた次第よ』 「我々はこういう機会をも…

【⑦何か用かい?】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより カーヴァー作品には、70年代のアメリカの労働者階級の困窮がリアルに描かれています。村上春樹はそれについて『それまでのアメリカ文学においてはほとんど描かれなかったものだし、もし描かれたとしても教条主義的な色彩を帯びたものに限定されて…

【⑥自転車と筋肉と煙草】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 初期のカーヴァーの作品にはもっぱらシンプルな表現が用いられ、余分な説明が省略されているところに特徴があります。それは読者に物語の隠された部分を推測させ、想像力をかきたてる効果を狙ったものです。今回もその魅力の一端を感じていただけ…

【⑤こういうのはどう?】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより レイモンド・カーヴァーの短編集『頼むから静かにしてくれ』に収録された作品を引き続きご紹介します。 カーヴァーが創作活動をしていた頃は、短篇小説は長篇小説に比べて軽く見られる面があったと言います。彼自身、生涯を通じて長篇小説を書け…

【④鴨】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 本作は初期に発表されたものではありますが、多くの暗示や謎に満ちた難解な作品です。一度読んだだけで何かを掴むことができたなら、あなたは相当の強者か、もしくは私と同じ思い込みの激しい妄想家ですね(*_*) 物語には製材所に勤める男とその妻…

【③嘘つき】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 本作はカーヴァーの短編の中ではめずらしく書簡体で描かれた作品です。知事選に当選した息子について母親の不安と心配が切々と綴られています。母子家庭の下で育ったその息子は、15歳のある夏の日を境に、別人格に変わってしまったと彼女は言いま…

【②ジェリーとモリーとサム】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazon.co.jpより 今回は『ジェリーとモリーとサム』という短篇をご紹介します。本作のタイトルについて、訳者の村上春樹は巻末の解題で次のように述べています。 この作品の中にはたしかにジェリーもモリーもサムも出てはくるけど(端役のバーテンダー、客の…

【①他人の身になってみること】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

レイモンド・カーヴァーの短編集『頼むから静かにしてくれⅡ』に収録された作品をご紹介していきます。本ブログでは以前『頼むから静かにしてくれⅠ』の13作品をご紹介しました。今回はその続きになりますが、カーヴァーのプロフィールや創作の背景、作品の魅…

【世界で最後の花】

本書の作者のジェームズ・サーバーはオハイオ州生まれです。雑誌「ニューヨーカー」の編集者・執筆者として活躍しました。イラストレーター、漫画家としても活動し、当時最も人気のあるユーモア文学作家の一人であったと言われています。 原作は1939年9月に…

【1Q84 BOOK3】

BOOK3では牛河の章が加わり、3つの視点が交差する形で物語が進行します。牛河の追跡を交わして再会をした天吾と青豆は1Q84からの脱出を試みます。胸のすくようなエンターテイメントの先に浮かび上がる重厚なテーマ。どうぞ最後までお付き合い下さい。 《牛河…

【1Q84 BOOK2】

BOOK2では、青豆と天吾の生い立ちと二人の最初の出会いが明かされます。同級生だった小学校時代の思い出。そこに複雑怪奇なこの物語を紐解くカギがあります。 《天吾の物語》 「僕には一人の友だちもいない。ただの一人もです。そしてなによりも、自分自…

【1Q84 BOOK1】

ベストセラーとなった『1Q84』を3回に分けてご紹介します。 本書は《青豆の物語》と《天吾の物語》の各章が交互に進行し、互いに呼応しながら一つの物語を形作る村上作品ではおなじみの形式です。そこに恋愛・ミステリー・SF・歴史・宗教・文学などの要素…

【⑩恋するザムザ】(『恋しくて』より)

本作は村上春樹自身がこの短編集のために書き下ろした作品です。カフカの『変身』の奇想天外な後日譚が描かれています。 《あらすじ》 主人公が目を覚ますとグレゴール・ザムザに変身していた。彼には過去も未来も現在のこともほとんど理解できず、服の着方…

【⑨モントリオールの恋人】(『恋しくて』より)

作者のリチャード・フォードはミシシッピ州生まれ。ニューヨーク、シカゴ、メキシコなどに移り住み、その土地に根ざした作品を発表。1996年にピューリッツァー賞とPEN/フォークナー賞を同時受賞した。現代アメリカ文学の重鎮的存在といわれます。 《あらすじ…

【⑧恋と水素】(『恋しくて』より)

作者のジム・シェパードは1956年コネティカット州生まれ。ウィリアム大学創作家教授でもあります。2007年度全米図書賞の最終候補となり、優れた短篇集に与えられるストーリー賞を受賞しています。 《あらすじ》 マイネルトとグニュッスは飛行船ヒンデンブル…

【⑦ジャック・ランダ・ホテル】(『恋しくて』より)

アリス・マンローはカナダを代表する作家として不動の地位にある人物です。2005年には、「タイム」誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれ、2009年にブッカー国際賞を、2013年にノーベル文学賞を受賞しました。 彼女は女性の生き方を模索する作品を…

【⑥薄暗い運命】(『恋しくて』より)

リュドミラ・ペトルシェフスカヤは現代ロシアを代表する女性作家です。リアリズム的作品から幻想小説や童話まで精力的に執筆。2010年の世界幻想文学大賞*1をはじめとる受賞歴多数、国内外で高い評価を受けています。 今回はポストモダン等の文学の潮流につい…

【⑤L・デバードとアリエット 愛の物語】(『恋しくて』より)

作者のローレン・グロフは1978年ニューヨーク州生まれ。2015年に長篇作品『運命と復讐』で全米図書賞最終候補*1となり高い評価を得ました。いまアメリカで最も期待される女性作家のひとりです。 《あらすじ》 元水泳の金メダリストであり、詩人でもあるL・デ…

【④甘い夢を】(『恋しくて』より)

海外作品のアンソロジー『恋しくて』から、ポストモダニズム以降に登場したラブ・ストーリー作品をご紹介しています。 ペーター・シャタムはスイス在住の作家です。ジャーナリスト、ライター、放送作家を経て1998年に小説家デビュー。チェーホフやカミュ、レ…

【③二人の少年と、一人の少女】(『恋しくて』より)

作者のトバイアス・ウルフは、アラバマ州バーミングハム出身です。高校を中退後、軍隊に入隊してベトナム戦争に従軍し、その後、オックスフォード大学やスタンフォード大学で文学・創作を学びました。1985年に発表した『兵舎泥棒』がペン/フォークナー賞*1を…