村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【②若くても、若くなくても、女性というものは】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより

 グレイス・ペイリーは子育ての合間に短編小説を書き、いろんな雑誌に送りました。しかし、当初はアマチュア主婦の書いた習作とみなされ、ことごとく掲載は拒否されたといいます。たまたまある編集者の目にとまり、37歳の新人作家のしかも雑誌に一度も掲載されたことのない処女短編集という異例ずくめで刊行されたのが本書です。

 

 本作『若くても、若くなくても~』の語り手は、おませな13歳の少女ジョセフィーンです。祖母は暴力的な夫の下で子供たちを育て上げ、母は軟弱な夫に逃げられながら娘2人を養ってきました。ある日、祖母と母と娘が集う家に、歳の離れた母の妹リズが恋人のブラウニー伍長を連れて訪れます。家族が寝静まった夜、ジョセフィーンは伍長の寝床に忍び込みました。

 

『あれをしたい?』

「ブラウニー、どうしてほしいの?あれをしたい?」やれやれ!彼はベッドから飛び出して、肩のところからシーツをかぶり、うなった。「まったく、なんてことを……まったく」と彼は言った。「こんなことをしてたら、俺は逮捕されちまうよ。MPにとっつかまって、一生監獄暮らしだ」

 

 とかなんとか言いながら、結局のところジョセフィーンの誘惑に負けたブラウニー伍長は、リズと喧嘩した腹いせもあって彼女と結婚の約束を交わします。母は最初こそ猛烈に反対したものの、リズに紹介された海軍中尉との恋愛が盛り上がを見せるや、あっさりと二人の婚約を承諾しました。

 

【戦時下の異常事態】

 その後、ブラウニー伍長の梅毒罹患が発覚して二人の結婚は頓挫、母は前夫との離婚が成立しないにもかかわらず中尉と再婚するなど、はちゃめちゃな展開が続きます。タイトルの通り、女性たちのしたたかな生態が少女の視点でコミカルに描かれるのですが、それは表面的なこと。本質的には、戦時下という異常事態が作り出す兵士と女性たちの一過的な連帯とモラルのゆるんだ社会への風刺が漂います。

 

 このあとに登場する作品も、キッチン・テーブルで主婦が書き留めた身のまわりの出来事という体裁で描かれます。易しい語り口でありながら、多義的なイメージが増殖する技法は、太古から培われてきた民族的伝統のようなものとも。いずれにしても、決してすらすらと読める内容ではないので、多くの雑誌が彼女の才能を見逃したのもうなずけるような気がするのです。

 

 当ブログでは複数の作品を俯瞰しながら、難解な作品の意図に迫りたいと考えています。旧世界からやってきたグレイス・ペイリーの歯ごたえある残り8作品を(時折ブレークタイムを挟みながら)ご紹介していきますので、引き続きよろしくお願いします。