村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

【鏡】「カンガルー日和」より

本作は複数の国語教科書に採用されたという意味で、隠れたベストセラー作品です。教室で読む村上作品はいったいどんな感じがするのでしょうか。若い感性をもつ生徒たちと本作をテーマに語り合ってみたいものです。 【要旨】 それは僕が小さな中学校で夜警の…

【あしか祭り】「カンガルー日和」より

本作は各種のイデオロギーが蔓延した社会の風刺が描かれていますが、テンポの良さと物語全体を包むユーモアで文句なしの面白さです。 【要旨】 玄関のベルがカンコンと鳴り、ドアを開けるとそこにあしかが立っていた。 「僕」はなんだかよくわからないまま「…

【彼女の町と、彼女の綿羊】「カンガルー日和」より

本作は特定の日時や場所・固有名詞が使われていて、まるで私小説のような作品です。札幌の冬の到来を思い浮かべながら、主人公の心によぎるのはきっとあの《羊の物語》ではないでしょうか。 【要旨】 東京で作家をしている「僕」は札幌の街で古い友人と交流…

【タクシーに乗った吸血鬼】「カンガルー日和」より

本作は機知に富んだ会話とトボけた間の取り方が楽しい戯曲風の作品です。テーマの掘り下げはさほど深くありませんが、興味深い着想を含んでいます。 【要旨】 「僕」は渋滞の道路上でタクシーの車内に閉じ込められている。 「吸血鬼って本当にいると思います…

【眠い】「カンガルー日和」より

本作は「僕と彼女」の軽妙なやり取りが楽しい作品です。モラトリアムな青年の立場に作者の個人的な心情も垣間見える興味深い作品になっています。 【要旨】 彼女とふたりで出席した結婚式でうたた寝が始まる。 花嫁の友人の友人である僕は、員数合わせのために…

【4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて】「カンガルー日和」より

《恋愛》にまつわる都会の片隅のメルヘンが描かれた作品です。抽象化された情景に遠い日の記憶が呼び覚まされます。 【要旨】 原宿の裏通りを歩いていた僕は「100パーセントの女の子」と出会う。 花屋の店先ですれ違った彼女は、振り返れば人混みの中に消え…

【カンガルー日和】「カンガルー日和」より

短編集『カンガルー日和』は掌編を18編集めて構成されています。今回はその中から高校の現代国語教科書にも採用された表題作をご紹介します。 【要旨】 待ちに待った月曜日の朝、僕と彼女は動物園へと出かけた。 柵のなかには三匹のカンガルーと生まれたばか…

【シドニーのグリーン・ストリート】「中国行きのスロウ・ボート」より

この作品は、若い読者向けに書かれた寓話形式の読み物になっています。ストーリーは単純明快でコメディーの要素も盛り込まれていますが、読後に少しだけ複雑な感触が残りました。 【要旨】 羊男がシドニー・グリーンストリートの僕の探偵事務所に現れた。 依…

【土の中の彼女の小さな犬】「中国行きのスロウ・ボート」より

『午後の最後の芝生』に続く、職業作家の道を歩み始めた作者の第2弾となる短編作品です。当時はまだ目新しい分析心理学の知見が取り入れられています。 【要旨】 時代に取り残されつつある古きリゾート・ホテル。 食堂で出会った女性が打ち明ける心の傷。 僕…