村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【⑰長距離ランナー】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

ここまでのペイリーの作品を振り返ってみると、前半の作品①~⑧では社会的に孤立する人々の困難な状況に光をあてました。後半の作品⑨~⑯では正義や権利を強引に主張する盲目性や、弱者への無関心を警告しました。いずれにしても、ペイリーは弱者の視点で社会…

【アフターダーク】

本書は、部屋に閉じこもって眠り続ける姉と、そのことに思い悩む妹の物語です。妹は夜の裏街をさまよい、人々とのふれあいを通じて人生の哀歓を味わいます。 作者が感銘を受けたというロベール・アンリコ監督の映画『若草の萌えるころ』へのオマージュでしょ…

【⑯移民の話】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

本作には男女の会話のすれ違いが描かれ、いかにもグレイス・ペイリーらしい政治的な発言が飛び交います。前回⑮では「他者との会話」が人の理性を良い方向に導くと書いたものの、保守とリベラルの対立が深刻化するアメリカ社会は、会話そのものが困難を極めて…

【海辺のカフカ(下)】

先の『海辺のカフカ(上)』では、『父を殺し、母と姉と交わる』と予言された少年の受難が描かれました。彼は機能不全家族の影響と思われる解離性障害により予言を疑似体験してしまいす。それはまるで、ポストモダン思想の文脈に掲げられた「エディプス・コン…

【⑮父親との会話】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

グレイス・ペイリーは本書のエピローグで、作品に登場する父親について次のように語っています。 『どのような物語の中に居を構えていても、彼は私の父である、医学博士にして、画家にしてストーリーテラー、I・グッドサイトです』 今回ご紹介する作品は、彼…