村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2024-01-01から1年間の記事一覧

【⑦引っ越し日】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより 本作は、マンハッタンのアパートメント・ハウスの管理人であるチェスター氏の一日を描いています。彼と彼の妻は20年前にマサチューセッツ州から引っ越してきた労働者ですが、管理人として与えられた地位と権限は大きく、居住者たちの暮らしを見守…

【シェエラザード】(『女のいない男たち』より)

Amazonより 本作は、謎の事情を抱えて潜伏する男と「連絡係」として彼の世話をする女の話です。物語の主人公は、女性信者に支えられながら2か月間の逃亡生活を送った地下鉄サリン事件の実行犯である林泰男を彷彿とさせます。 『前世はやつめうなぎ』 羽原(…

【⑥治癒】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより 人生における中間点やピークを指して「人生の正午」と呼ぶとき、それは、過去の経験を振り返り、未来の方向性を見極めるための転換期を意味します。本作は、そんな「人生の正午」の人物が遭遇した不思議な話です。 『私にかまうな!』 それはある…

【⑤バベルの塔のクランシー】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより 《愛は負けても、親切は勝つ》という言葉を残したのは、アメリカの作家カート・ヴォネガットです。愛や正義は時に失敗や挫折に直面することがあるのに対して、親切や思いやりは軽やかに情勢を打開するという考え方です。本作は、ある善意の人物が…

【④トーチソング】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより 本作は、どうしようもないダメ男ばかりに惚れて破局を繰り返す女性と、彼女を陰ながら見守る男がたどった不思議な話です。タイトルの『トーチソング』は主に1930年代に流行した片思いや失恋の気持ちを歌った流行歌。物語を包み込む純真無垢な旋律…

【独立器官】(『女のいない男たち』より)

Amazonより 本作は、都会の片隅で情事を楽しんできた男が、食べ物も喉を通らなくなるほどの痛切な恋に落ち、その結果自らを死に追いやることになってしまった話です。 『渡会医師の恋』 美容整形外科医の渡会(トカイ)と「僕」は趣味のスカッシュを通じて知…

【③サットン・プレイス物語】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより ジョン・チーヴァーの作品はカフカ的手法が取り入れられているところに特徴があります。それは非現実的な要素を通じて、読者が現実の深層に触れたり幻想的な雰囲気のなかで思いを巡らせたりする効果を生んでいます。今回はサットン・プレイスに暮…

【②ああ、夢破れし街よ】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより 1950年代の雑誌「ザ・ニューヨーカー」は、サリンジャー、カポーティー、オコナー、そしてチーヴァーといった面々によってアメリカ短編小説の黄金時代を築きました。そんな時代の勢いに乗って異彩を放ってきたジョン・チーヴァーの作品を引き続き…

【①巨大なラジオ】(『巨大なラジオ/泳ぐ人』より)

Amazonより アメリカ短篇小説の名手と言われたジョン・チーヴァーの作品をご紹介します。チーヴァーはニューヨーク近郊に暮らす中産階級の人々の人生の悲哀を描きました。細部を緻密に描写するそのタッチ。リアルな日常がいつしか幻想に代わる構成力。彼の作…

【イエスタデイ】(『女のいない男たち』より)

Amazonより 『イエスタデイ』の替え歌が話題になった作品です。その歌詞は示唆的要望を受けて雑誌掲載時から大幅に削られてしまい残念ですが、以前の出だしを少しだけご紹介。 昨日は あしたのおとといで おとといのあしたや それはまあ しゃあないよなあ 『…

【⑩そこに浮かぶ真実】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 本作は就職口を求めて怪しげな仲介屋と手を組んだ娘の物語です。奇想天外から落ちて来る滋味豊かな世界を描いてきた短編集の最後の作品をご紹介します。 『あいつはのしあがっていく』 車上生活を送る正体不明の仲介屋。娘はその仲介屋の手練手管…

【⑨そのとき私たちはみんな、一匹の猿になってしまった】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 本作はニューヨークの下町で毒ガスを開発するオタク青年を主人公にした物語です。時代の証言者グレイス・ペイリーは、若者たちの間に生まれた狂気を書き留めます。 その青年は父親の経営するペットショップで働くぱっとしない男でした。しかし、…

【ドライブ・マイ・カー】(『女のいない男たち』より)

Amazonより 短編集『女のいない男たち』の冒頭に収録されている作品をご紹介します。本作は濱口竜介監督によって映画化され、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞しました。 『口数の少ないドライバー』 通常であれば家福は女性の運転する車に乗ることを好みま…

【⑧長くて幸福な人生から取った、二つの短くて悲しい物語】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 本作はグレイス・ペイリーの「フェイス・シリーズ」の第一作です。主人公のフェイスにはリチャードとトントという二人の息子がいて、彼女のパートナーは元の夫、新しい夫、ボーイフレンドなどその時々のシチュエーションで入れ替わります。記念す…

【⑦変更する事のできない直径】(『人生のちょっとした煩い』より)

Amazonより 本作は個性的なグレイス・ペイリーの作品のなかでも、取り分けぶっとんだ内容になっています。不条理な小説世界に込められた寓意を探って行きたいと思います。 エアコン設置業者のチャールズは、仕事で訪れた家で未成年のシンディーという魅力的…

【ズーイ】(『フラニーとズーイ』より)

Amazonより 先の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』で社会の欺瞞に対して「ノー」を突き付けたJ.D.サリンジャーは、本書『フラニーとズーイ』では、若者たちの未来に向けて渾身の「イエス」を絞り出しています。世代を超えて読み継がれるイノセント・ストーリ…

【フラニー】(『フラニーとズーイ』より)

Amazonより 『フラニーとズーイ』は、J.D.サリンジャーのライフワークであるグラス家の七人兄弟姉妹の物語のひとつです。末娘のフラニーと五男のズーイに焦点をあて、若者たちが自己を探求し、社会とのかかわりについて向き合う姿が描かれていています。 最…