村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編】

『 第2部予言する鳥編』では、主人公のトオルが自分の内なる偏見と暴力に向き合う姿が描かれます。 このような《自分探し》をするなかで、極度のストレスが再来する記憶に出会うこともあるでしょう。しかし私自身は、必ずしも全ての人が心の傷に向き合うべ…

【ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編】

本作は3部構成なので本ブログも3回に分けて投稿します。 『第1部泥棒かささぎ編』には、平穏な日常に潜む崩壊の予兆が漂います。以前までの村上作品であれば、主人公は他者との関係に距離を置いて自分探しをするのが常でしたが、本編の主人公トオルは踏み…

【国境の南、太陽の西】

本作は《ミッドライフ・クライシス*1》を描いた小説です。 バブル絶頂期に成功を手にした主人公の人生は順風満帆に見えながら、何かが欠けているように感じつつ日々が過ぎていました。ある美貌の女性の登場により人生が急転回し始めます。物語は、至高なるも…

【学生の妻】『頼むから静かにしてくれ』より

本作はカーヴァーの初期の作品のひとつです。大学のワークショップで学んでいた作者本人と最初の妻メアリアンが小説のモデルになっていて、夫婦生活の「あるあるエピソード」が盛り込まれたコミカルな作品に仕上がっています。 《あらすじ》 ある夜、リルケの…

【サン・フランシスコで何をするの?】『頼むから静かにしてくれ』より

カーヴァーの作品には《話し言葉》が効果的に使われていて、本作のようにタイトルになることもしばしばあります。《話し言葉》のもつ曖昧さは、筋の通った《書き言葉》に比べて釈然としない事もあるのですが・・・。いつものように作者の仕掛ける企てに翻弄され…

【収集】『頼むから静かにしてくれ』より

さて、今回もまた妻に出て行かれた失業中の男が登場します(笑)。 全体としてはコミカルな雰囲気のシュール・リアリスティック小説ですが、無駄のないストーリー展開、心の動きの心理学的正確さ、リアリズムを凌駕する象徴的な意味合いなど、素人目にも見事な…

【ナイト・スクール】『頼むから静かにしてくれ』より

本作には結婚生活の崩壊した惨めな男が登場します。崩壊の後に男の心に訪れたのは、望みなく、慰みもない虚無の闇。彼に関わる人々はみな失望し、苦言を呈して立ち去ります。そのあまりに取り付く島のない状況は、逆にシニカルで滑稽でさえあるのですが、ど…