村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

【午後の最後の芝生】「中国行きのスロウ・ボート」より

短編集『中国行きのスロウ・ボート』に収録された5つ目の作品であるこの短編は、作者の初めての長編作品『羊をめぐる冒険』の発表を挟んで書かれたものです。豊かな物語性を持っているという点で、先の4作品からは格段の進化を遂げています。 【要旨】 僕…

【カンガルー通信】「中国行きのスロウ・ボート」より

この作品はカセットテープに録音した一人語り、という一風変わった体裁をとっています。今回改めて読み返してみて、転機を迎えた作家の並々ならぬ決意が示されていたことに気付かされました。 【要旨】 柵の中の4匹のカンガルーがもたらす啓示。 苦情の手紙…

【ニューヨーク炭鉱の悲劇】「中国行きのスロウ・ボート」より

この作品の題名の『ニューヨーク炭鉱の悲劇』は、ビージーズの曲名から来ていて、その歌詞にはベトナム戦争犠牲者への追悼が込められているとも言われています。初期の村上作品としては稀有な社会派の香りがする作品をご紹介します。 【要旨】 夜の動物園で…

【貧乏な叔母さんの話】「中国行きのスロウ・ボート」より

広場の銅像を見上げながら《記号探し》が始まるこの作品は、あのブローティガンの名作『アメリカの鱒釣り』*1の冒頭を彷彿とさせます。その本を抱えているだけでカッコ良かった時代もあったとか、無かったとか('ω') 【要旨】 一角獣の銅像が立つその広場で、…

【中国行きのスロウ・ボート】「中国行きのスロウ・ボート」より

本書は、デビュー間もない村上春樹が取り組んだ初短編集の表題作です。彼の作風はこののちいくつかの変遷を遂げていますが、改めて読み返すと、40年たった今でも物語の軸となる部分は変わっていないことがよく分かります。 【要旨】 中国人教師への信頼に、…

村上春樹レヴューを開始します。

このブログでは、村上春樹の長編小説・短編小説・翻訳もの、及び関連する映画・舞台・漫画についてのレヴューを綴っていきます。 いま把握できているのは、長編小説14作品、短編小説99作品、翻訳もの78作品。全てのレヴュー書き終えるには、おそらく7年くら…

【猫を棄てる】

本書は、父と息子の個人的な物語であると同時に、歴史の一隅を照らす物語でもあります。ある夏の日に、父と息子が海辺に一匹の猫を棄てに行ったエピソードから始まります。 『小さな歴史のかけら』 どうしてその猫を海岸に棄てに行かなくてはならなかったの…

【一人称単数】「一人称単数」より

今回はピリッと引き締まった短い作品ではありますが、この短編集の表題作でもあるので、総括的な意味合いを読み取ってみたいと思います。 【要旨】 隣の席の女性が唐突に理不尽な言いがかりを浴びせて来た。 「恥を知りなさい」 匿名で発言された誹謗中傷が…

【品川猿の告白】「一人称単数」より

短編集『一人称単数』から1作ずつ取り上げてきた書評も7作目まできました。ブログの書き方はいまだ試行錯誤中ですが、なんとか続けていけそうです(;^_^A 【要旨】 小さな温泉町のみすぼらしい旅館の一室で向き合う品川猿と小説家。 猿社会にも人間社会にも属…