村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【ティモシーの誕生日】(『バースディ・ストーリーズ』より)

本作を書いたウィリアム・トレヴァーはアイルランド出身の作家です。祖国の抱える複雑な事情を背景に、民族のアイデンティティと葛藤を描いてきたとされます。短篇の名手として高く評価され、ノーベル文学賞の候補に何度も名前が上がったと言われています。 …

【③道のり】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

今回ご紹介する作品には、自分の息子と既婚女性との不倫関係について申し開きする母親が登場します。弁明すればするほど隠れた事実が次々と露呈していきます。道義的な問題はこの際一旦脇に置いて、そのストーリーテリングの面白さを味わいました。 《あらす…

【ダンダン】(『バースデイ・ストーリーズ』より)

本作を書いたデニス・ジョンソンは、アイオワ大でレイモンド・カーヴァー*1から教えを受けた作家です。暴力とドラッグに染まった現代アメリカ社会の暗部を精力的に描きましたが、その乾いた文体はカーヴァーのミニマリズムを彷彿とさせます。 《あらすじ》 …

【②負債】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

今回ご紹介するグレイス・ペイリーの2作目は、作者自身をモデルとしたシリーズのひとつです。物語には、まっとうな社会人としての義務を果たそうと考える一人の女流作家が登場し、家族史の編纂という気の進まない仕事に取り組むのですが・・・案の定、彼女のフ…

【ムーア人】(『バースディ・ストーリーズ』より)

村上春樹翻訳ライブラリーの『バースディ・ストーリーズ』から短編作品をご紹介します。本書は《誕生日》をキーワードに選定された英米文学のアンソロジーです。この多種多様な取り合わせを、村上春樹がどのような意図で構成したか最終的に考察しますのでお…

【①必要な物】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

グレイス・ペイリーという人をご存知ですか?彼女はアメリカの小説家、詩人、大学教授、フェミニスト、社会主義の政治活動家です。両親はウクライナから亡命してきたユダヤ人で、家庭内ではロシア語とイディッシュ語*1を話し、高校を中退して19歳で結婚する…