村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【②負債】(『最後の瞬間のすごく大きな変化』より)

 今回ご紹介するグレイス・ペイリーの2作目は、作者自身をモデルとしたシリーズのひとつです。物語には、まっとうな社会人としての義務を果たそうとする一人の女流作家が登場します。そのために家族史の編纂という気の進まない仕事に取り組むのですが、、、案の定、彼女のフェミニスト魂に火がつきます!

 

《あらすじ》
る女性が作家の私に祖父の伝記を依頼してきたが、私はその申し出を断った。傑出した家系のファミリー・アーカイブを引き継ぎ保存するのはけっこうきついものなのだ、と友人のルチアが説明してくれた。たしかにそのとおりかもしれない。その女性のことはともかく、私は家族や友人に借りを返さねばならない。手始めにその友人ルチアの家族の話から始める。

 

『マリアはマイケルと結婚した』

 お祖母さんの名前はマリアといった。お母さんの名前はアンナ。彼らは1900年代の初めにマンハッタンのモット・ストリートに住んでいた。マリアはマイケルと言う男と結婚した。彼は働き者だったが、不運といくつかのつらい思い出が、彼をウェルフェア・アイランドの精神病院に追いやった。

 

のマイケルは亡くなり、代わりにマリアはマイケルという同名の男と偽装結婚をした。そうすることで、彼女は女手ひとつの生活から抜け出し、子どもの人格形成に寄与することもできたと自分を納得させた。しかし、物事は上手くいかないもので、偽のマイケルもポックリと逝ってしまう。

 

フェミニズム

 フェミニズムは19世紀の市民革命に端を発し、女性の教育・職業の機会均等や参政権などの権利を求める《第一波フェミニズム》から始まったされます。その後、妻に不利な離婚法の撤廃や、中絶の合法化などの性差別との闘いによる《第二波フェミニズム》が60年代に起こりました。《第三波フェミニズム》と呼ばれる昨今の状況は、目指すべき共通目標を持たないために、やや一貫性を欠いているとも言われています。

 

 本作は、お世話になってきた人々への、心理的な負債を返済するために始めた家族史編纂の話です。しかしその編纂作業は、いつのまにか女性に対する差別問題の告発へとエスカレートしていきます。フェミニズムを標榜する人たちからすれば、過去の家族史には見過ごすことのできない問題が山積しているのでしょう。夫のいない女性にはまともな職につく権利すら得られない、という不条理がここでは取り上げられています。

 

 物語に登場する女流作家のひねくれぶりはさておき、このような社会運動の果たした役割に敬服すべき点があるのは間違いありません。この先ご紹介する作品にも、この種の問題が繰り返し登場します。私としては、イデオロギーの部分とはほどよい距離感を保ちつつ、グレイス・ペイリー文学の本質的なキモの部分に迫っていければと考えます。それでは。