ご紹介するグレイス・ペイリーの2作目は、作者自身をモデルとしたシリーズのひとつです。物語には、作家として社会的な義務を果たそうとする一人の女流が登場します。彼女は、家族史の編纂という気の進まない仕事に取り組みますが、案の定、ペイリー自身の気質でもあるフェミニスト精神に火がつきます。
《あらすじ》
ある女性が、作家である私に祖父の伝記を依頼してきた。しかし、私はその申し出を断った。その後、「傑出した家系のファミリー・アーカイブを引き継ぎ、保存するのはけっこうきついものなのだ」と友人のルチアがたしなめた。確かにそのとおりかもしれない。その女性の依頼はさておき、私は家族や友人に借りを返そうと思う。手始めにその友人の家族の話から始めてみよう。
『マリアはマイケルと結婚した』
お祖母さんの名前はマリアといった。お母さんの名前はアンナ。彼らは1900年代の初めにマンハッタンのモット・ストリートに住んでいた。マリアはマイケルと言う男と結婚した。彼は働き者だったが、不運といくつかのつらい思い出が、彼をウェルフェア・アイランドの精神病院に追いやった。
夫を失ったマリアは、同じ名前の男マイケルと偽装結婚をした。そうすることで、彼女は母子家庭の厳しい生活から抜け出し、子どもの成長にも良い影響を与えられると考えた。しかし、その新たなマイケルもポックリと逝ってしまい、状況は一向に変わらない。
【フェミニズム】
フェミニズムの運動は、19世紀の市民革命から始まりました。最初の波(第一波フェミニズム)は、女性の教育や職業の機会均等、参政権の獲得を目指しました。その後、1960年代には妻に不利な離婚法の撤廃や中絶の合法化といった性差別への闘いが展開され、これが第二波フェミニズムと呼ばれます。そして近年の第三波フェミニズムでは、共通の目標を欠くために、やや一貫性に欠ける傾向があるとも言われています。
本作は、女流作家が心理的負債を返すために始めた家族史の編纂の話ですが、次第に女性差別の告発へとエスカレートしていきます。フェミニズムを標榜する人たちにとって、過去の家族史には見過ごすことのできない不平等が多く存在します。たとえば、夫を持たない女性がまともな職業に就けないという問題が、この物語の中では描かれています。
物語に登場する女流作家のひねくれぶりはともかく、このような社会運動の果たしてきた役割には敬意を払うべき点が多いのは確かです。この先ご紹介するペイリーの作品にも、この種の問題が繰り返し登場します。私としては、イデオロギーの部分とはほどよい距離を保ちつつ、グレイス・ペイリー文学の核心部分に迫っていきたいとと考えています。それでは、また。