村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

【TVピープル】(TVピープルより)

作品集『TVピープル』では、主人公が社会問題に直接関与していく様子が描かれます。この作品以前は、ほどよい距離感を保ちながらクールに論じるスタンスでしたが、ここでは当事者として問題と対峙することで得体の知れない《恐怖と暴力》が出現します。その…

【マイ・ロスト・シティー】(マイ・ロスト・シティーより)

わずかのあいだ、というのは私がそんな役まわりには向いていないということがはっきりするまでだが、私は時代の代弁者というのみならず、時代の申し子という地位にまで祀り上げられてしまった。私がである。 本作は実話に基づいたフィッツジェラルドのエッセ…

【アルコールの中で】(『マイ・ロスト・シティー』より)

1940年12月21日にフィッツジェラルドは心臓発作でこの世を去ります。44歳の生涯でした。アルコール依存が進み健康状態が悪化した彼のそばに最後まで寄り添っていたのは愛人のグレアム。彼女の献身によって、フィッツジェラルドは死の直前まで執筆に情熱を注…

【失われた三時間】(マイ・ロスト・シティーより)

1930年代後半に入ると、フィッツジェラルドは借金返済と娘の学費稼ぎのために、映画会社と脚本家契約をしてハリウッドに移住しています。療養が続く妻のゼルダとは疎遠になる一方で、シーラ・グレアムという女性と運命的な出会いをしています。その後彼女の…

【哀しみの孔雀】(マイ・ロスト・シティーより)

本作はフィッツジェラルドの死後に発掘された作品です。 1930年代に入ると大恐慌がアメリカ全土を襲いました。ゼルダ夫人は精神病を煩い、娘の養育は男手一つに任されます。彼の著作の多くは既に絶版となり、大衆は文学に別の新たな力を求め始めます。彼が描…

【氷の宮殿】(マイ・ロスト・シティーより)

本作は、南部のアラバマ出身のゼルダ夫人にインスパイアされて出来上がった作品です。彼女は狂乱の1920年代を象徴するフラッパー(独立心旺盛で享楽的女性)であり、この作品以降もフィッツジェラルドの創作の原動力になっていきます。 《あらすじ》 南部出…

【残り火】(マイ・ロスト・シティーより)

本書は1920年のフィッツジェラルドの華々しいデビューの年に書かれた短篇です。彼の私生活には破天荒なイメージが漂うものの、その作品には高い倫理観が裏打ちされています。そのことがとてもよく分かる最初の作品をご紹介します。 《あらすじ》 小説家のジ…

【フィッツジェラルド体験】(マイ・ロスト・シティーより)

おかげさまでブログの投稿も60回を超えました。書き込みスタイルはすっかり定型化したものの、発想までが過去の投稿の繰り返しにならないかと危惧しているところです。当初の予定では村上作品の短編モノをご紹介するつもりでしたが、ここは少し間をとって態…