村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

【羊をめぐる冒険(下)】

北海道に舞台を移してから物語は一段とスケールアップします。羊博士に羊男のおなじみの神話的アーキタイプ(元型)も出揃い、物語は羊が象徴する思想の終焉というカタストロフィーに突き進みます。 【あらすじ】 「僕」とガールフレンドは羊を探しに北海道へと…

【羊をめぐる冒険(上)】

本書は職業作家の道を踏み出した作者の初の長編作品。世界各国の言語に翻訳されてハルキ・ムラカミのイメージを形作った代表作でもあります。変則的な時系列や入れ子構造の歴史挿話など、複雑さに加えて内容も盛りだくさんとなっています。文庫版の(上)(下)…

【1973年のピンボール】

本書には村上作品でおなじみのモチーフが続々と初登場します。主人公を導く双子のアニマ、僕と鼠のパラレルワールド、井戸掘りに異界との交信等々。どれもこの中編作品のなかには収まりきれないアイデアばかり。タイトルはあからさまに『万永元年のフットボ…

【風の歌を聴け】

臆すことなく 本書は言わずと知れた村上春樹のデビュー作。若干29歳の新人作家は自身の創作のルーツとして架空のSF作家を臆すことなく引用し、翻訳調の文体にポップカルチャーをちりばめ、既存の文学に対するあからさまなアンチテーゼを展開しました。「こん…

【ハンティング・ナイフ】「回転木馬のデッド・ヒート」より

本作は2003年に米誌『ザ・ニューヨーカー』に掲載されました。アメリカの読者が本作を読んでどのように感じるのかとても興味があります。情報が容易に飛び交うグローバルな時代にあって国境を超えた相互理解はとても大切なことですが、本作は改めてその困難…

【野球場】「回転木馬のデッド・ヒート」より

ギリシャ神話のウロボロスの蛇が自分の尻尾を呑み込む姿は、マクロな宇宙科学(蛇の頭)とミクロの素粒子物理学(尻尾)が結びつくという先端科学のシンボルでもあります。人の心と身体の関係についても、《観念論》と《実体論》のあいだで「心-身問題」*1と呼…

【雨やどり】「回転木馬のデッド・ヒート」より

1980年代は土地の急激な上昇により企業や富裕層のみならず一般人まで巻き込んだ一大消費ブームが起きた時代です。高級輸入車、有名絵画、骨董品が買い漁られ、大都市の歓楽街には大金を手にしたバブル紳士が現れたといいます。・・・と云ってもボクはまだバブル…

【嘔吐1979】「回転木馬のデッド・ヒート」より

1938年にサルトルが著した『嘔吐』は、神なき実存世界に遭遇した近代人の不安を描いたと言われています。それ以降も文学は無神論や唯物論など多様な価値観を表現してきました。さて、サルトルから40年を経た本件の《1979年の嘔吐》が問いかけるものは何でし…