村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

2023-01-01から1年間の記事一覧

【②テレサ】(『恋しくて』より)

引き続き海外作家の短篇ラブ・ストーリーをご紹介します。 作者のデヴィッド・クレーンズはイェール大学で演劇を学び、小説に加えて戯曲や映像脚本などを手掛けています。ユタ大学の名誉教授であり、ユタ大学の全ての教育賞の受賞歴を持つ優れた教育者でもあ…

【①愛し合う二人に代わって】(『恋しくて』より)

『恋しくて』に収録された10篇のラブ・ストーリーをご紹介します。恋愛に関して初級レベルの私が扱うので、至らない部分が散見されると思います。作品の価値を損なわないよう心して記述していきますので宜しくお願いします。 今回の作者マイリー・メロイはモ…

【街とその不確かな壁(第三部)】

ここまでネタバレを防ぐために、物語の山場に踏み込むことは極力避けてきましたが、逆に村上作品を味わうための基本情報を紹介できているのではないかと密かに自負しています。【第三部】も引き続き作品の周辺部をご案内します。 《第三部の途中(69章)までの…

【街とその不確かな壁(第二部)】

結末を読まないという制約のなかでブログ記事を書き続けている。そのような状況は何かを意味するかもしれないし、何も意味しないかもしれない。しかしたぶん何かは意味しているはずだ…さて、気分が乗ってきたところで引き続き【第二部】のご紹介♪ 《第二部の…

【街とその不確かな壁(第一部)】

6年ぶりの村上春樹の新刊をご紹介します。読者の楽しみを奪わないために、私自身が最後まで読み切らないことで結末をばらしてしまう過ちを防ぎたいと考えています。言い換えれば〖読み終えていない本について堂々と語る〗というのが今回のブログの試みです(…

【極北】

本書は英国作家マーセル・セローによる《近未来サバイバル小説》です。旧ソビエトの取材に基づく緻密な描写、随所に敷かれた伏線、リアルで重厚なディストピア観が特徴です。翻訳は村上春樹。 《あらすじ》 科学技術は地上に壊滅的な被害をもたらした。人々…

【品川猿】(『東京奇譚集』より)

『東京奇譚集』の最終話をご紹介します。先の第4話で本短編集の総括をしたばかりなのに順序が逆では?と思われるかもしれません。書いている私自身も当惑気味ですから。ともかく、順番通りにご紹介してその意図を探ってみたいと思います。 《あらすじ》 安藤…

【⑨緑したたる島】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

本書の最終話はプエルト・リコに駆け落ちした若いカップルの話です。緑したたるその島は、楽園のイメージとは裏腹に若き二人に厳しい現実を迫ります。この最終話を通じて、いつものように本書全体を俯瞰してみたいと思います。 《あらすじ》 二人は妊娠とい…

【日々移動する腎臓のかたちをした石】(『東京奇譚集』より)

本作は短編集『神の神の子どもは踊る』に収録された『蜂蜜パイ』の続編になっています。前回のご紹介で、主人公の淳平と作者の視点を重ね合わせて短編集全体を俯瞰してみました。その後の淳平が描かれた本作からも、短編集の全体像に迫ってみたいと思います…

【⑧ボランティア講演者】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの8作目は、世界中を転々とする外交官の話です。あらゆる国の常識・非常識を受け入れる彼らの適応力は素晴らしいのですが、それに連れ添う家族の苦労がしのばれる作品です。 《あらすじ》 僕は次の任地に赴くまでの休暇中に、ドイツに配属中の…

【どこであれそれが見つかりそうな場所で】(『東京奇譚集』より)

今回ご紹介するのは、高層マンションの非常階段で姿を消した男の話です。都会の片隅で起きた不思議な話をご紹介します。 《あらすじ》 依頼者は証券トレーダーの夫と品川のマンションの26階に住んでいた。3年前に義母が同じマンションの24階に越してきた。義…

【⑦あるレディーの肖像】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの7作目は、仕事でフランスを訪れたアメリカ人ビジネスマンの話です。憧れのパリ滞在にもかかわらず、居心地の悪い思いを繰り返すうちに、彼は早く家に帰りたいと嘆きます。ビジネス現場のあるあるエピソードには同情すべき点もありますが・・・…

【ハナレイ・ベイ】(『東京奇譚集』より)

本作は2018年に映画化されています。吉田羊の熱演には好感が持てましたが、映像ならではの解釈がなくて、少し物足りない感じがしました。映画に関して門外漢なので、間違った見方なのかもしれませんが。代わりといっては何ですが、やみくもな飛躍を試みた私…

【⑥便利屋】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの6作目は 著名な作家の知遇を得ようとロンドンに通う批評家の話です。批評家稼業の俗物ぶりを面白おかしく描いた内容ですが、読み進むにつれて身につまされるような気持ちがしてきました。 《あらすじ》 批評家のブラッドワース教授は毎年夏…

【ティファニーで朝食を】

第二次大戦下のニューヨークを舞台に、社交界を自在に遊泳する女性のライフ・スタイルが描かれます。粋な会話と端正な文章、高尚な人生観から猥雑な不道徳まで、すべてがドラマチック。オードリー・ヘップバーンが主演した映画とは、ひと味もふた味も違う小…

【⑤真っ白な嘘】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの5つ目の作品は、アフリカに滞在する若者たちの話です。新天地への赴任を契機に偽りで身を立てようとした同僚に風土病が襲いかかります。それは嘘の報いというにはあまりにも酷い驚きの結末!これが作者の実体験からきた話と知って二度びっ…

【偶然の旅人】(『東京奇譚集』より)

作品集『東京奇譚集』から短篇作品をご紹介していきます。本書は全体を通じて「家族の関係性」が描かれています。血を分けた家族であっても気持ちが通じ合うとは限らない。その一方で親から子へと受け継がれるさまざまな呪縛。硬直した関係を一変させる出来…

【④コルシカ島の冒険】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

本作には異国で起きた恋の逃避行の顛末が描かれます。余計な解説は野暮なことと承知しつつも、いつものように私見を交えてご紹介します。 《あらすじ》 旅先のマルセイユで、シェルドリック教授の妻はすがる彼を振りほどいて去っていった。彼女と一緒に世界…

【ロング・グッドバイ】

本書はレイモンド・チャンドラーが描く《私立探偵マーロウ・シリーズ》の代表作です。本書を読み終えた時、これまで私が勝手に思い描いていたハードボイルドの概念は覆されました。 《あらすじ》 私立探偵フィリップ・マーロウは、高級クラブの前で泥酔して…

【③サーカスと戦争】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの3作目は異国の家庭にホームステイする少女の話です。古い家父長制の伝統が残る《世界の果て》で、15歳の少女がひとり反旗を翻す姿が描かれます。 《あらすじ》 ディーリアは、ロンドンからフランスの田舎にホームステイでやってきた。家の主…

【グレート・ギャツビー】

本書は文学史に残る傑作と評価されるスコット・フィッツジェラルドの代表作であり、村上春樹が満を持して翻訳に取り組んだ意欲作でもあります。 《あらすじ》 隣の敷地の豪邸では週末ごとに盛大なパーティーが開かれていた。パーティーの参加者たちは主催者で…

【②文壇遊泳術】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

今回ポール・セローの短編集からご紹介するのは、文壇の著名人たちを招いたパーティーを開いて人脈を広げていくという社交術に長けた男の物語です。 《あらすじ》 マイケルは酒屋に勤める平凡な青年。出版業界に顔の利くロナルドと文壇のパーティーに参加す…

【キャッチャー・イン・ザ・ライ】

J・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』をご紹介します。大人たちの欺瞞に対して鬱屈した想いをぶつける内容が共感を呼び、不朽の青春小説として世界中で読み継がれているのはご存じの通り。野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』以来、40年ぶ…