Amazonより
今回ご紹介するのは、妻の誕生日に新しくオープンしたエレガントなレストランを訪れた夫婦の物語です。夫は夫婦仲を立て直そうと努力しますが、妻はあまり乗り気ではなく、そんなビミョーな関係が描かれています。
『すべてはあなた次第よ』
「我々はこういう機会をもっとちょくちょく持つべきだね。」と彼は言った。彼女は肯いた。「ときどき外で食事するのもいい。もしそうしてもらいたいのなら、僕はもっと努力するけれど」彼女はセロリに手をのばした。「すべてはあなた次第よ」「それは違うだろう!なにも僕がやったわけじゃ・・・その・・・」「何をやったのよ?」と彼女は言った。
二人のやり取りや振る舞いから、夫が不貞を疑われていることが暗示されます。終始ふてくされた態度をとる夫はまるで子供のようですが、対照的にレストランオーナーであるアルドは紳士的で気配りのできる大人の男性として描かれています。
【新たな文学の景色】
本作は、すっかりお馴染みとなった「情けない男シリーズ」の一作です。悩める主人公の夫は、行き詰まった夫婦生活の中で八方ふさがりに陥り、後にも先にも希望の出口は見えません。こうした状況を作り出した背景は一切説明されていませんが、むしろ説明がないことで、かえってその独特の雰囲気が伝わってきます。読者はクスリと笑った後で、どこか自分の身に重ねてしまうような気持にさせられます。
物語の中で、妻はアルドの紳士的な振舞いを引合いに出しながら、夫に厳しい言葉を投げかけます。それに対して、夫は返す言葉もなく内心で葛藤を抱え込む。一見すると平凡な日常の一コマですが、言葉を失った生活者の孤独や絶望を描くことで、カーヴァーは文学を新たな次元に導いたとされています。
さて、次回はいよいよ最終話となる『⑨頼むから静かにしてくれ』をご紹介します。3ヵ月にわたるシリーズのしめくくりとなるこの作品で、2年越しとなった『頼むから静かにしてくれⅠ・Ⅱ』の完結編をお届けします。最後まで読んで下されば幸いです。