作者のカーヴァーは高校の卒業と同時に当時十六歳のメアリアンと結婚し、生まれ育った町を離れました。短期の仕事を続けながら大学に通い創作の勉強を開始し、二人の子供を抱える妻もウェイトレスなどをしながら家計を助けます。やがてカーヴァーの名前は文学サークルの中で少しずつ広まっていき・・・といった背景を踏まえて次の作品をご紹介します。
《あらすじ》
失業中の男は、女房がウェイトレスとして働いているコーヒーショップに立ち寄った。女房が客に太りすぎだと言われるのを耳にして、嫌がる彼女に無理やりダイエットを押しつける。女房は苦労した末になんとか減量に成功したのだが、男はそれが嬉しくてたまらない様子。
『そいつらはお前の亭主じゃないんだ』
「お店の人があれこれ言うのよ」と彼女は言った。「どんなことを?」とアールが訊いた。「たとえば、顔色が悪いとか」と彼女は言った。「様子が変だとか、そんなに痩せて具合が悪いんじゃないかとか」「痩せて何が悪いんだよ?」と彼は言った。「何言われたって気にすることないさ。人のことにいちいち口出すなって言っておけよ。そいつらはお前の亭主じゃないんだ。」
男はこの後二人の子供を寝かしつけると妻の働くコーヒーショップに出かけ、見知らぬ客にウェイトレスをしている女房の太腿を見せて自慢を始めます。あきれ返った店員や客たちから煙たがられる様は、悪意こそ無いもののみじめな亭主ここに極まれり!といった感じ。
【開き直った一言】
この男のみじめさは、品の無いあけすけな言動ばかりではありません。勤労意欲の欠落や、実益の無いものへの執着や、見通しの立たない将来性など、まるで世に出る前のカーヴァー自身の自虐的な自画像を映し出しているようでもあります。
生活苦のなかで創作の夢を捨て切れなかったカーヴァーは、最終的に妻と子供たちを失ってしまいます。タイトル名にもなった『そいつらはお前の亭主じゃない』と開き直って放つセリフの裏には、作者自身の自戒の念が込められているように感じられます。
§追記§
本日ノーベル文学賞の発表がありましたが、残念ながら村上春樹の名前は挙がりませんでした。このブログの運営からもお分かりのように、私は彼の活躍を自分のことのように自慢に思っているのですが、毎年繰り返されるこの知らせは彼の評価を損なっているようで沈鬱な気持ちになります。自分こそ《みじめな村上主義者》であることを承知で一言!
あれこれ言われたって気にするな、来年こそはきっと!いや必ず!!