村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【ゾンビ】(TVピープルより)

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 子供の頃に見た映画『ゾンビ』。生前の記憶と理性を失った死者たちの蘇った姿は醜く、動きはぎこちなく、哀れなモンスターそのものです。現代の感覚でその映画を振り返ると、死者を冒涜する描き方は少しやり過ぎな感じもしますが、醜く哀れなものの筆頭のイメージとしての『ゾンビ』の姿が、今でも私の記憶に焼き付いています。

 

《あらすじ》
夜中、墓場のとなりの道を男女のカップルが歩いていた。邪悪なことが起こりそうな予感が漂う。ゾンビの気配。だが何も見えない。その代わりに男がこんなことを口にした「どうして君はそんなみっともない歩き方をするんだろうな」

 

【邪悪な予感】

「どうして君はそんなみっともない歩き方をするんだろうな」と男が唐突に言った。「私?」と女は驚いて言った。「私、そんなにみっともない歩き方するかしら?」「ひどいよ」と男は言った。「そう?」「がにまただ」女は唇を噛んだ。

 

女は男を愛していたし、男だって彼女のことを愛していた。それに二人は来月に結婚を予定していました。彼女は不快な空気をやり過ごそうとするのですが、男の乱暴な言葉は留まる気配を見せません。ゾンビがその姿を現すまで暴言は続きました。

 

【品格の問題】

 皆さんご存じの通り《品格》とは、礼儀や節度や気高さに富む様を表します。昔も今も問題とされる女性の品格、男性の品格、横綱の品格、皇室の品格、果ては国家の品格に至るまで、そこに明確な価値基準が存在しないためか、自己流の解釈も加わって「言ったもの勝ち」の様相さえ呈しています。

 

 本作の中で男が彼女を侮辱する言葉を注意深く辿っていくと「品の追及」を手始め「格の貶め」へと推移していることが分かります。このように、品格を相手に強要することは、相手を貶めてマウントを取ることに隠された意図があるのかも知れません。

 

 彼女を脅かしたゾンビの正体を解き明かせたので、今夜は安心して眠れそうです。そして明日は、私の中のゾンビが顔を出さない一日となりますように( ゚Д゚)