村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【でぶ】『頼むから静かにしてくれ』より

f:id:Miyuki_customer:20210927123042j:plain

 レイモンド・カーヴァーのデビュー短編集『頼むから静かにしてくれ』から13篇をご紹介していきます。彼の作風は《ミニマリズム》とも呼ばれるオリジナルなスタイルで、それに感銘を受けた村上春樹は精力的に彼の作品の翻訳を手掛けました。カーヴァーの作品の魅力や創作の背景について次回以降少しずつ触れたいと思います。

 

 さっそく最初の作品『でぶ*1』からご紹介します。

 

《あらすじ》
るレストランに見慣れない巨漢の客がやってきた。奇妙な息遣いとしゃべり方を除けば、小ぎれいな見かけで服装も上等な紳士。私はその男の給仕を担当し、次々とテーブルに料理を運んでいった。調理場のスタッフたちはでぶを馬鹿にし、私のこともからかった。しかし、私のなかで何かが変質し始める。

 

『何かを求めて』

ごゆっくりお召し上がってください、と私は言って、砂糖入れの蓋を開け、中をのぞく。彼は肯いて、私が行ってしまうまで、私のことをじっと見つめている。今では私にも、自分が何かを求めていたことがわかっている。でも何を求めていたのか、それはわからない。

 

分がいったい何を求めていたのか、最後まで彼女は言葉にすることが出来ませんでした。しかし、とらえどころのない異質な何かが彼女の心を変容させ、彼女の人生観は大きく転回し始めます。

 

【日常の一コマ】

 本作を読んで、タレントのマツコ・デラックスがメディアに登場し始めた頃のことを思い返しました。規格外の巨体と巧みな話術にくぎ付けになりながら、私自身のモノをみる見方にパラダイム・シフトのようなものが起きたようも思えるのですが・・・。その後の結果が今となってはあまりに自明すぎて、もはや以前に自分が見ていたものを思い返すことができません。

 

 カーヴァーは作品のなかで、人々が見過ごして気が付かない日常の一コマに肉薄します。ただ、そこに焦点を絞り込めば絞り込むほど、人の思いや感情は不確定さを増し言葉に表すことは難しく、物語としての成立さえも危ぶまれます。そんなぎりぎりの瀬戸際で天才的な手腕を発揮する作家の珠玉の作品をお伝えしていきます。どうか宜しく(^^)/

*1:本作はジョセフ・ヘンリー・ジャクソン賞の「特別推薦」に選出された初期の代表作である。