村上春樹レヴューのブログ

自称村上主義者の私が独自の切り口で作品をご紹介します。

【⑥自転車と筋肉と煙草】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 初期のカーヴァーの作品にはもっぱらシンプルな表現が用いられ、余分な説明が省略されているところに特徴があります。それは読者に物語の隠された部分を推測させ、想像力をかきたてる効果を狙ったものです。今回もその魅力の一端を感じていただけ…

【⑤こういうのはどう?】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより レイモンド・カーヴァーの短編集『頼むから静かにしてくれ』に収録された作品を引き続きご紹介します。 カーヴァーが創作活動をしていた頃は、短篇小説は長篇小説に比べて軽く見られる面があったと言います。彼自身、生涯を通じて長篇小説を書け…

【④鴨】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 本作は初期に発表されたものではありますが、多くの暗示や謎に満ちた難解な作品です。一度読んだだけで何かを掴むことができたなら、あなたは相当の強者か、もしくは私と同じ思い込みの激しい妄想家ですね(*_*) 物語には製材所に勤める男とその妻…

【③嘘つき】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazonより 本作はカーヴァーの短編の中ではめずらしく書簡体で描かれた作品です。知事選に当選した息子について母親の不安と心配が切々と綴られています。母子家庭の下で育ったその息子は、15歳のある夏の日を境に、別人格に変わってしまったと彼女は言いま…

【②ジェリーとモリーとサム】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

Amazon.co.jpより 今回は『ジェリーとモリーとサム』という短篇をご紹介します。本作のタイトルについて、訳者の村上春樹は巻末の解題で次のように述べています。 この作品の中にはたしかにジェリーもモリーもサムも出てはくるけど(端役のバーテンダー、客の…

【①他人の身になってみること】(『頼むから静かにしてくれⅡ』より)

レイモンド・カーヴァーの短編集『頼むから静かにしてくれⅡ』に収録された作品をご紹介していきます。本ブログでは以前『頼むから静かにしてくれⅠ』の13作品をご紹介しました。今回はその続きになりますが、カーヴァーのプロフィールや創作の背景、作品の魅…

【世界で最後の花】

本書の作者のジェームズ・サーバーはオハイオ州生まれです。雑誌「ニューヨーカー」の編集者・執筆者として活躍しました。イラストレーター、漫画家としても活動し、当時最も人気のあるユーモア文学作家の一人であったと言われています。 原作は1939年9月に…

【1Q84 BOOK3】

BOOK3では牛河の章が加わり、3つの視点が交差する形で物語が進行します。牛河の追跡を交わして再会をした天吾と青豆は1Q84からの脱出を試みます。胸のすくようなエンターテイメントの先に浮かび上がる重厚なテーマ。どうぞ最後までお付き合い下さい。 《牛河…

【1Q84 BOOK2】

BOOK2では、青豆と天吾の生い立ちと二人の最初の出会いが明かされます。同級生だった小学校時代の思い出。そこに複雑怪奇なこの物語を紐解くカギがあります。 《天吾の物語》 「僕には一人の友だちもいない。ただの一人もです。そしてなによりも、自分自…

【1Q84 BOOK1】

ベストセラーとなった『1Q84』を3回に分けてご紹介します。 本書は《青豆の物語》と《天吾の物語》の各章が交互に進行し、互いに呼応しながら一つの物語を形作る村上作品ではおなじみの形式です。そこに恋愛・ミステリー・SF・歴史・宗教・文学などの要素…

【⑩恋するザムザ】(『恋しくて』より)

本作は村上春樹自身がこの短編集のために書き下ろした作品です。カフカの『変身』の奇想天外な後日譚が描かれています。 《あらすじ》 主人公が目を覚ますとグレゴール・ザムザに変身していた。彼には過去も未来も現在のこともほとんど理解できず、服の着方…

【⑨モントリオールの恋人】(『恋しくて』より)

作者のリチャード・フォードはミシシッピ州生まれ。ニューヨーク、シカゴ、メキシコなどに移り住み、その土地に根ざした作品を発表。1996年にピューリッツァー賞とPEN/フォークナー賞を同時受賞した。現代アメリカ文学の重鎮的存在といわれます。 《あらすじ…

【⑧恋と水素】(『恋しくて』より)

作者のジム・シェパードは1956年コネティカット州生まれ。ウィリアム大学創作家教授でもあります。2007年度全米図書賞の最終候補となり、優れた短篇集に与えられるストーリー賞を受賞しています。 《あらすじ》 マイネルトとグニュッスは飛行船ヒンデンブル…

【⑦ジャック・ランダ・ホテル】(『恋しくて』より)

アリス・マンローはカナダを代表する作家として不動の地位にある人物です。2005年には、「タイム」誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれ、2009年にブッカー国際賞を、2013年にノーベル文学賞を受賞しました。 彼女は女性の生き方を模索する作品を…

【⑥薄暗い運命】(『恋しくて』より)

リュドミラ・ペトルシェフスカヤは現代ロシアを代表する女性作家です。リアリズム的作品から幻想小説や童話まで精力的に執筆。2010年の世界幻想文学大賞*1をはじめとる受賞歴多数、国内外で高い評価を受けています。 今回はポストモダン等の文学の潮流につい…

【⑤L・デバードとアリエット 愛の物語】(『恋しくて』より)

作者のローレン・グロフは1978年ニューヨーク州生まれ。2015年に長篇作品『運命と復讐』で全米図書賞最終候補*1となり高い評価を得ました。いまアメリカで最も期待される女性作家のひとりです。 《あらすじ》 元水泳の金メダリストであり、詩人でもあるL・デ…

【④甘い夢を】(『恋しくて』より)

海外作品のアンソロジー『恋しくて』から、ポストモダニズム以降に登場したラブ・ストーリー作品をご紹介しています。 ペーター・シャタムはスイス在住の作家です。ジャーナリスト、ライター、放送作家を経て1998年に小説家デビュー。チェーホフやカミュ、レ…

【③二人の少年と、一人の少女】(『恋しくて』より)

作者のトバイアス・ウルフは、アラバマ州バーミングハム出身です。高校を中退後、軍隊に入隊してベトナム戦争に従軍し、その後、オックスフォード大学やスタンフォード大学で文学・創作を学びました。1985年に発表した『兵舎泥棒』がペン/フォークナー賞*1を…

【②テレサ】(『恋しくて』より)

引き続き海外作家の短篇ラブ・ストーリーをご紹介します。 作者のデヴィッド・クレーンズはイェール大学で演劇を学び、小説に加えて戯曲や映像脚本などを手掛けています。ユタ大学の名誉教授であり、ユタ大学の全ての教育賞の受賞歴を持つ優れた教育者でもあ…

【①愛し合う二人に代わって】(『恋しくて』より)

『恋しくて』に収録された10篇のラブ・ストーリーをご紹介します。恋愛に関して初級レベルの私が扱うので、至らない部分が散見されると思います。作品の価値を損なわないよう心して記述していきますので宜しくお願いします。 今回の作者マイリー・メロイはモ…

【街とその不確かな壁(第三部)】

ここまでネタバレを防ぐために、物語の山場に踏み込むことは極力避けてきましたが、逆に村上作品を味わうための基本情報を紹介できているのではないかと密かに自負しています。【第三部】も引き続き作品の周辺部をご案内します。 《第三部の途中(69章)までの…

【街とその不確かな壁(第二部)】

結末を読まないという制約のなかでブログ記事を書き続けている。そのような状況は何かを意味するかもしれないし、何も意味しないかもしれない。しかしたぶん何かは意味しているはずだ…さて、気分が乗ってきたところで引き続き【第二部】のご紹介♪ 《第二部の…

【街とその不確かな壁(第一部)】

6年ぶりの村上春樹の新刊をご紹介します。読者の楽しみを奪わないために、私自身が最後まで読み切らないことで結末をばらしてしまう過ちを防ぎたいと考えています。言い換えれば〖読み終えていない本について堂々と語る〗というのが今回のブログの試みです(…

【極北】

本書は英国作家マーセル・セローによる《近未来サバイバル小説》です。旧ソビエトの取材に基づく緻密な描写、随所に敷かれた伏線、リアルで重厚なディストピア観が特徴です。翻訳は村上春樹。 《あらすじ》 科学技術は地上に壊滅的な被害をもたらした。人々…

【品川猿】(『東京奇譚集』より)

『東京奇譚集』の最終話をご紹介します。先の第4話で本短編集の総括をしたばかりなのに順序が逆では?と思われるかもしれません。書いている私自身も当惑気味ですから。ともかく、順番通りにご紹介してその意図を探ってみたいと思います。 《あらすじ》 安藤…

【⑨緑したたる島】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

本書の最終話はプエルト・リコに駆け落ちした若いカップルの話です。緑したたるその島は、楽園のイメージとは裏腹に若き二人に厳しい現実を迫ります。この最終話を通じて、いつものように本書全体を俯瞰してみたいと思います。 《あらすじ》 二人は妊娠とい…

【日々移動する腎臓のかたちをした石】(『東京奇譚集』より)

本作は短編集『神の神の子どもは踊る』に収録された『蜂蜜パイ』の続編になっています。前回のご紹介で、主人公の淳平と作者の視点を重ね合わせて短編集全体を俯瞰してみました。その後の淳平が描かれた本作からも、短編集の全体像に迫ってみたいと思います…

【⑧ボランティア講演者】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの8作目は、世界中を転々とする外交官の話です。あらゆる国の常識・非常識を受け入れる彼らの適応力は素晴らしいのですが、それに連れ添う家族の苦労がしのばれる作品です。 《あらすじ》 僕は次の任地に赴くまでの休暇中に、ドイツに配属中の…

【どこであれそれが見つかりそうな場所で】(『東京奇譚集』より)

今回ご紹介するのは、高層マンションの非常階段で姿を消した男の話です。都会の片隅で起きた不思議な話をご紹介します。 《あらすじ》 依頼者は証券トレーダーの夫と品川のマンションの26階に住んでいた。3年前に義母が同じマンションの24階に越してきた。義…

【⑦あるレディーの肖像】(『ワールズ・エンド(世界の果て)』より)

ポール・セローの7作目は、仕事でフランスを訪れたアメリカ人ビジネスマンの話です。憧れのパリ滞在にもかかわらず、居心地の悪い思いを繰り返すうちに、彼は早く家に帰りたいと嘆きます。ビジネス現場のあるあるエピソードには同情すべき点もありますが・・・…