2021-01-01から1年間の記事一覧
本作はフィッツジェラルドの死後に発掘された作品です。 1930年代に入ると大恐慌がアメリカ全土を襲いました。ゼルダ夫人は精神病を煩い、娘の養育は男手一つに任されます。彼の著作の多くは既に絶版となり、大衆は文学に別の新たな力を求め始めます。彼が描…
本作は、南部のアラバマ出身のゼルダ夫人にインスパイアされて出来上がった作品です。彼女は狂乱の1920年代を象徴するフラッパー(独立心旺盛で享楽的女性)であり、この作品以降もフィッツジェラルドの創作の原動力になっていきます。 《あらすじ》 南部出…
本書は1920年のフィッツジェラルドの華々しいデビューの年に書かれた短篇です。彼の私生活には破天荒なイメージが漂うものの、その作品には高い倫理観が裏打ちされています。そのことがとてもよく分かる最初の作品をご紹介します。 《あらすじ》 小説家のジ…
おかげさまでブログの投稿も60回を超えました。書き込みスタイルはすっかり定型化したものの、発想までが過去の投稿の繰り返しにならないかと危惧しているところです。当初の予定では村上作品の短編モノをご紹介するつもりでしたが、ここは少し間をとって態…
【オドルンダヨ、オンガクノツヅクカギリ】 唐突ですが、曹洞宗の坐禅は《只管打坐(シカンタザ)》とも呼ばれ、ただひたすらに坐るとされます。何かの目的の手段にしてみたり、見返りを求めたりしないで坐り続けるというのは、なかなか難しいことのようです。…
本作は青春三部作の一つである『羊をめぐる冒険』の続編になっています。前作は70年代の戦後民主主義のイデオロギー幻想を葬って一旦幕を閉じました。あれから4年、ベストを尽くして来たものの、何処にも行けず、誰も真剣に愛せず、何を求めているのか分か…
発売当初の本書の帯には『100パーセントの恋愛小説です』というキャッチコピーが付いていました。なるほどこの作品はこれまでとはまったく手法の違う《恋愛リアリズム小説》に間違いないのですが、刺激が強すぎて思わず目を背けてしまいたくなるような性描写…
本書はリアリズムの文体で書かれていて、これまで寓話的に語ってきたテーマを初めて私小説(的作風)に取り入れた作品になっています。また、本書は驚異的な売り上げによって社会現象を巻き起こしました。それまで一部の読者にサブカル的な読まれ方をしてきた…
物語は後半に入ると意識と無意識の世界は徐々にシンクロしはじめ、『世界の終り』にまつわる謎も解き明かされていきます。 後半に進むほど痛みや死やSEXが頻繁に登場して、読者の中には不快に感じる方がいるかもしれません。ボクのブログは村上作品に対する…
この作品は一人の人間の《意識》と《無意識》の世界が交互に描かれます。 初めて読んだときには現実離れした娯楽作品のように思っていたのですが、改めて読み返すと、壁に囲まれた街の成り立ちにはユング心理学の裏付けがあり、計算士の脳に組み込まれたプロ…
本作は『ザ・ニューヨーカー』に掲載されたのち、英語圏向けの短編集『The Elephant Vanishes』の巻頭を飾りました。どこにでもあるような日常的なシチュエーションが綴られていますが、読み進むにつれて何か啓示のようなものが降りてくる気配が感じられます…
本作は長いタイトルに反して本文は12ページと短く、歴史上の史実にも深入りしていないので読みやすいかと思います。タイトルの『ヒットラー~』の部分が目に留まったのか、ドイツ語に翻訳された最初の作品となりました。かつてドイツでは村上作品の重訳(英訳…
本作は『1973年のピンボール』という中編のスピンオフ作品です。村上作品になじみのない人のために少しだけ解説しておきます。 [解説:1973年のピンボール] 『1973年のピンボール』は208と209のトレーナーを着た双子と主人公のひと夏の日々が描かれた作品…
本作は《シチュエーション・コメディ》の約束事を忠実になぞっています。コミカルな場面では[笑い声]、放送コードにかかりそうなセリフには[ブーインング]や[警告音]を想像しながら読むとその世界観に没入できます。身近で庶民的な問題をとりあげなが…
世の中の事象は因果律に従って淡々と進んでいるように見えます。しかし、そうしたボクたちが素朴に信じる論理は、実は自然界において最初から崩壊していると言われます。にわかには信じられませんが、量子力学の学説によれば、人の目の届かない所で神様はこ…
福音書には『人はパンのみにて生くるものに非ず』という一節があります。これは神と共に歩むことの重みを説いたイエスの言葉とされていますが、キリスト教徒でもないボクのような人間は『パン』に象徴される生活の諸事に振り回されながら一生を終えることで…
北海道に舞台を移してから物語は一段とスケールアップします。羊博士に羊男のおなじみの神話的アーキタイプ(元型)も出揃い、物語は羊が象徴する思想の終焉というカタストロフィーに突き進みます。 【あらすじ】 「僕」とガールフレンドは羊を探しに北海道へと…
本書は職業作家の道を踏み出した作者の初の長編作品。世界各国の言語に翻訳されてハルキ・ムラカミのイメージを形作った代表作でもあります。変則的な時系列や入れ子構造の歴史挿話など、複雑さに加えて内容も盛りだくさんとなっています。文庫版の(上)(下)…
本書には村上作品でおなじみのモチーフが続々と初登場します。主人公を導く双子のアニマ、僕と鼠のパラレルワールド、井戸掘りに異界との交信等々。どれもこの中編作品のなかには収まりきれないアイデアばかり。タイトルはあからさまに『万永元年のフットボ…
臆すことなく 本書は言わずと知れた村上春樹のデビュー作。若干29歳の新人作家は自身の創作のルーツとして架空のSF作家を臆すことなく引用し、翻訳調の文体にポップカルチャーをちりばめ、既存の文学に対するあからさまなアンチテーゼを展開しました。「こん…
本作は2003年に米誌『ザ・ニューヨーカー』に掲載されました。アメリカの読者が本作を読んでどのように感じるのかとても興味があります。情報が容易に飛び交うグローバルな時代にあって国境を超えた相互理解はとても大切なことですが、本作は改めてその困難…
ギリシャ神話のウロボロスの蛇が自分の尻尾を呑み込む姿は、マクロな宇宙科学(蛇の頭)とミクロの素粒子物理学(尻尾)が結びつくという先端科学のシンボルでもあります。人の心と身体の関係についても、《観念論》と《実体論》のあいだで「心-身問題」*1と呼…
1980年代は土地の急激な上昇により企業や富裕層のみならず一般人まで巻き込んだ一大消費ブームが起きた時代です。高級輸入車、有名絵画、骨董品が買い漁られ、大都市の歓楽街には大金を手にしたバブル紳士が現れたといいます。・・・と云ってもボクはまだバブル…
1938年にサルトルが著した『嘔吐』は、神なき実存世界に遭遇した近代人の不安を描いたと言われています。それ以降も文学は無神論や唯物論など多様な価値観を表現してきました。さて、サルトルから40年を経た本件の《1979年の嘔吐》が問いかけるものは何でし…
本作のタイトルは、ラヴェル作曲の『亡き王女のためのパヴァーヌ』に由来します。この曲の寂しげな旋律は物語のBGMとなって、結末に訪れる喪失感をより高めています。ただ、本作の甘く切ない感じをこの名曲のようにお伝えする力量は私にはありませんので、い…
この物語に登場するビリー・ジョエルの楽曲は、ボクのお気に入りのひとつです。今でも『コンツェルト(旧ソ連でのライブツアーアルバム)』の中にあるその曲を繰り返し聴いています。昨今では彼の離婚と再婚の話題くらいしか聞こえてきませんが、お元気なので…
本作の舞台である60年代のグリニッジ・ヴィレッジは東海岸における文化・芸術の中心地でした。 レンガ造りの家並みや歴史を感じさせる街並みは、今でもニューヨークの1,2位を争う観光スポットだそうで、いつか訪れてみたいと思っています。 《あらすじ》 …
「 レーダーホーゼン」とはドイツ南部のバイエルンやオーストリアのチロル地方の鹿革半ズボンで、女性のディアンドルと並び立つ代表的な民族衣装です。改めてネットで検索してみると、かつての野暮ったい印象を払拭するカッコよさ。さぞかし値段も張ることで…
ブログの投稿も40回を超えました。ボクなりのスタイルも見つけて楽しく続けているところです。最近、ブログの記録から初期の投稿へのアクセスが頻繁に行われていることを知りました。そこで久しぶりに見返してみたところ、誤字脱字に意味不明な言い回しのオ…
この連作には、独特の印象を放つキーワード《博物館》《要塞》《空中庭園》が登場します。一見するとバラバラにも思える3つの物語の繋がりを読み解いてみたいと思います。 『冬の博物館としてのポルノグラフィー』 セックスが、潮のように博物館の扉を打つ…